Nine Inch Nailsの世界は「カオス」という単語がよく似合う。

デビューアルバムの『Pretty Hate Machine』がじわりじわりと売上を伸ばしていき、2nd『The Downward Spiral』では本格的なブレイクを決定付けた。

『The Fragile』は99年にリリースされた3枚目のスタジオアルバム。
2枚組で23曲収録されている。

Nine Inch Nailsといえば『The Downward Spiral』が代表作と言われているが、個人的には『The Fragile』なのだ。

静と動が繰り出す狂気

前作で感じた攻撃的なサウンドと緊張感。
それこそがNine Inch Nailsの特徴と魅力。

インダストリアルというジャンルでは様々な電子音、サンプリングが使われる。
Nine Inch NailsのサウンドはMinistryからの流れですんなり"インダストリアルらしい"音だと感じていた。
個性のある音ではあるが、その流れを汲むサウンドであり、キンキンに響くノイズ音が個性を強調していた。

『The Fragile』は、攻撃的なサウンドではあるが一枚フィルターを通したように纏まり、さらに張り詰めた緊張感が全体を覆っている。

①「Somewhat Damaged」で胸の鼓動が高鳴り、と思ったら妙な静けさが待っている。
それは嵐の前の静けさのようで、次に何が襲ってくるのか恐怖に似た興奮を覚える。
この感覚が『The Fragile』の最大の魅力であり、個人的に傑作だと思う理由なのです。

孤独を感じる恐ろしくも儚い音色と狂気を纏ったノイズが、予測不能の展開をおこし衝突的に襲いかかる。
時にかすれる様に、時に猟奇的に歌い上げるトレント・レズナーの歌声が、このサウンドに臨場感を持たせ分厚い音の層が出来上がる。

脳裏に表れる情景は壮大でドラマティック。
硬質ノイズに紛れて奏でられるピアノの旋律が、退廃的でロマンティックな意識をチラつかせる。
実にヴァラエティー豊かなサウンドで攻めてくるのだ。

当時確執があったというMarilyn Mansonが出演した過激なMV『Starfuckers,Inc.』は話題にもなった。和解の表明だったらしいが。

この後Nine Inch Nailsは、バンドスタイルを強調した作品や、インストを強調した作品などを作り出している。
どれもが異なり聴き応えのある作品だが『The Fragile』はもっと評価されるべき作品だと思う。

嵐の夜や静かすぎる夜に聴いたら、飛びそうだ。