Incubusの名盤といえば人によっては『Make Yourself』や『Morning View』を挙げる人が多いかもしれない。
しかし私の中では断然『A Crow Left of the Murder…』なのである。

2004年にリリースされたIncubusの通算5枚目となるアルバム『A Crow Left of the Murder…』は売上としては前述した2枚より低いのだが、音楽的センスとバンドとしてのバランスは非常に高い。

デビュー時はニューメタル色のあったIncubusだが『Morning View』で一皮剥け、さらに『A Crow Left of the Murder…』で完成した感がある。
マイク・アインジガーがメインギターをJazzmasterに変えたことが非常に大きいのだが、バンドの元々の特徴でもあるエフェクトを多用したジャムるような間奏のリズムパターンなど"遊び"の部分で、過去を卓越した技術を披露している。
自由に弾きまくるっているかのようなリフも、計算されており、サイケ感がありながら耳馴染みも良く迫力もある。前年に加入したベン・ケニー(Ba)の存在感も非常に高くテクニシャンぶりが分かる。

メンバー各々が高い演奏力を持っているバンドなので、初期以上にイカレたようなアンサンブルに強い印象が残るのは『A Crow Left of the Murder…』の特徴でもある。
純粋に技術力が上がったのもあるだろうが、脳内に降る音像を形にし、バンドで一つにまとめ上げるのは相当な共有力が必要となる。

ギターを何気なく弾いているとめちゃくちゃなリフが降ってきたりする。
プログレでサイケでリズムも自分自身わかっていないような。
それを譜面に書いたり録音したりして形にしていく。
そしてバンドで時間をかけて完成させる。
すると誰にも真似できないような曲ができる、良いか悪いかは置いといて。
初めてこのアルバムを聴いたときは、そのことが頭に浮かんだ。
マイクはめちゃくちゃギター触ってたんだろうなって。
まぁ当たり前か…。
リフの一つ一つがオリジナリティーがあり、これまでとも異なり、「到達したな！」と偉そうにも思ってしまった。
それまではラップメタル勢や、『Morning View』ではレッチリに比重をかけられていたが、ついに唯一無二のアルバムを完成させたと思わせられた。

デビュー盤の『S.C.I.E.N.C.E.』から追っており、どの作品も好きなのだが、この時代のバンドは個性を出すことが非常に難しいと思うことがある。
ガレージバンドの再来などリバイバルブームが起こっていることと、皆同じ機材や似たような機材を使っている時代でもあった。
流行り廃りがありPRS+MesaBoogieでは個性は感じられない年でもあった。
この頃には一つの時代が終わった後であったのだ。

前作ではそこからの脱却を成功させていたが、サウンド面での個性の強さは出せていなかったと思う。
楽曲の良さは出ていても、それまで出していたキャッチーな前衛的な部分は影を潜め大人しくなっているように感じた。
まだまだそうなってはいけないだろうと思っていたところでの『A Crow Left of the Murder…』という攻めだったので、興奮したのを覚えている。
この作品を引っさげてのライヴDVDも持っているが、バンドとしてのレベルの高さを感じ取れる内容になっている。
また、来日公演のLIVE CDも出ているので聴いてみて欲しい。
日本武道館で行われた世界ツアーのものだ。
内容はこれまでの活動を総括したベスト的なモノになっており、鳥肌ものだ。

デビュー当時は見た目の良さから心無いメディアからアイドルバンドと呼ばれたこともあったが、Incubusは音楽バカでこだわりの強い男臭いバンドである。
そして人を楽しませる音遊びも存分に含んでいるテクニックの持ち主だ。
でなければ、このような名盤は生まれない。

彼らのリアルな高技術と音への追求を是非体感してみてほしい。