hideのソロ2作目のアルバム『PSYENCE』は日本ロック史上、類を見ない最高のロックアルバムの一つ。
hideを語る上で発想やライヴを「おもちゃ箱をひっくり返したような─」と形容されるが、96年に『PSYENCE』をリリース、またレーベル『LEMONed』を設立した頃から言われるようになったと思う。
『PSYENCE』はまさに「おもちゃ箱をひっくり返したような」遊び心満載の名作。

シングル『MISERY』までは前作からの流れを引いていたが、続くシングル『BEAUTY&STUPID』から「あれっ？何か変わったな」とカウンターをくらい、アルバムがリリースされてTKOされた感じ。
当時の衝撃は未だに覚えており、前作からこんなにも進化するものなんだと驚かされた。
本作が発売された年は、前年末に「Windows95」が登場し"実質的なインターネット元年"と呼ばれ、ポケベルからPHSへ変更し始めた年だ。
当然音楽面でも様々なツールが取り入れられ、機材の性能は大規模な向上過程の中。
併せてファッションも変化を辿り、音楽・スポーツ・映画などもファッション性の高いものが増えていっていた気がする。
ミクスチャー要素が強まりつつある進化の真っ只中という感じ。
様々なジャンル/スタイルの音楽が表面化していた年に制作された『PSYENCE』は間違いなく、この年の世界的ベストアルバムである。

1stでは"X JapanのHIDE"であったが、2ndからは"アーティストとしてのhide"が確立され、ヴァラエティーに富んだ様々なスタイルの曲が収録されており、実験的な手法でのレコーディング・編集にhideの強いこだわりが見える。

自ら見出したZEPPET STOREに影響を受けたとして制作された『FLAME』やネオアコっぽい『LEMONed I Scream』など、これまでの音楽性に因われない音楽性の増幅を成しており、『DAMAGE』や『BACTERIA』ではリズムやパートを分解してサンプリングループしたり、一つ一つの音を繋ぎ無音の時間を無くしたりと大変な編集作業が行われている。

『LASSIE (demo master version)』はその通り自宅で録ったデモをそのまま収録。
『POSE』はプログラミング/エンジニアのI.N.Aのジャングルビートやプログラミングが効果的に織り込まれ、ゾクゾクするような迫力のある展開にピアノが乗っかるというスリリングでインダストリアルな世界が拡がっている。
個人的なフェイヴァリットは『限界破裂』で、横須賀バンド時代からの仲間であるDie in criesのTAKASHI(金内孝史)が参加している。軽いリズムとTAKASHIの地を這いずり回る様なベースが分厚い土台を作り上げ、リズミカルなギターとhideの歌声が強調される。

アルバムの一つの魅力でもあるアートワークはLEMONedに所属していたバンドtrees of Lifeが担当したとのことで、これまでと一変してPOPな仕上がりになっている。
『Misery』リリースの頃からそうだが、当時の雑誌やメディアでもhideのファッションの変化は見て取れていた。
このアートワークやファッション性が相乗効果を上げる。

またインストが4曲入っているのが面白く、それはまるでハーフタイムのよう。
間違いなく頭の中ではショーが繰り広げられ、新しいステージが次から次へと展開されるよう。
こんなエンターテイメント性のあるロックアルバムはそう無いだろう。

コンセプトは設定せずに制作していたようで、出来上がったら集大成のようになっていたという。
ここにはhideの好きなこと、やりたいことが詰め込まれている。
それがどれだけの人を虜にしたか、夢中にさせたか。
新たな世代に、カルチャーの一つとして永遠に語り継がれるであろう『hide』と『PSYENCE』。
楽しくなりたかったら聴けば良い、泣きたくなったら聴けば良い。
hideの才能と遊び心満載のエンターテイメントは、とても優しくてハッピーでカラフルなロックショーだった。